災害リスクマネジメント

「安全の質」:安全で安心な社会を実現するために

自然・環境等からの外力の発生が被害をもたらす災害として顕在化する過程には、人間の様々な活動が介在します。これらの外力と人間の活動、社会基盤等との相互作用によって自然災害による被害の程度や災害からの回復の仕方が異なってきます。人間の活動は民間・社会資本の蓄積を介して被害を受ける人口や資産の分布を規定します。さらに、これは,防災のための社会資本の蓄積や制度等の整備,災害文化の醸成等を介してソフト・ハードの社会基盤を形成していきます。

本研究室では、「安全の質」を規定する社会基盤と人間活動との関連に着目し、ハード・ソフトの社会基盤の整備を通じた災害リスクマネジメントの方法論の確立に向けて研究活動を展開しています。

教員

CRUZ, Ana Maria

教授(防災研究所)

研究テーマ

連絡先

宇治キャンパス 防災研究所 巨大災害研究センター
FAX: 0774-38-8294

研究テーマ・開発紹介

「災害リスクの評価・分析方法」に関する研究

災害が社会的被害を引き起こす過程には、人間の活動分布や住宅・産業の空間的集積状況、社会基盤の整備状況、さらにはそれらを間接的に規定する法や制度、文化といった重層的な構造が介在する。

そこで、人間活動の分布と災害のリスクとの関連を分析するためにニッチ分析を用いた方法論の開発を試みている。また、社会基盤の整備と災害リスクの関連性に関しては、道路網の冗長性解析手法を提案している。また、住居の空間分布のリスク解析のために、都市経済学的なアプローチに基づいて災害リスク情報の利用可能性と被害の発生可能性に関する理論的検討をおこなっている。

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図-1 人間活動に関わるリスク

「災害による社会・経済経済的インパクト」に関する研究

近年の災害による社会経済的なインパクトは年々増加の一途をたどっている。90年代の平均値と60年代のそれとを比較すると、災害の発生件数は3.2倍に増加し、総経済損失は8.6倍に、保険金支払額にいたっては16.1倍に達している。このことから、1)災害が全世界的に増加傾向にあること、2)また、その増加率を上回るスピードで、被災危険地域に人口や資産の集中が進む傾向があること、などがわかる。このことは、災害に対する対処方法を考える際に、社会経済活動への効果を考慮することが極めて重要であることを示唆している。

そこで、当研究室では、ハザードマップの提供による被害軽減の可能性や防災投資の短期・長期効果の計量化および評価方法に関して研究している。

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図-2 過去50年間における自然災害による経済被害の変化の様子(各10年間の全世界での合計)

「災害リスクマネジメントの戦略論」に関する研究

災害のリスクマネジメントの方法は、災害リスクの「コントロール」と「ファイナンス」に大別される。洪水に備えてダムや堤防を作ったり、建築物や土木構造物の耐震設計をおこなったりといった物的なリスクコントロールの他にも、保険、税あるいは情報提供等によって被災危険地域から人口や資産の分散を図るような非物的な手段によるコントロール手段も存在する。また、大規模な災害では被害の発生は避け得ない。このため、災害のリスクを効率的に分担していく仕組みであるリスクファイナンスも極めて重要である。災害リスクマネジメントを実効あるものにしていくためには、これらの施策を有機的に組み合わせていくことが不可欠となる。

そこで、当研究室では、これら災害リスクマネジメントのための施策をいかに組み合わせ、有効な戦略を導くかという政策分析の方法に関して研究をおこなっている。

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図-3 災害の被害の分布とリスクマネジメントの手段

「社会的合意形成過程」に関する研究

いかに、理想的なマネジメントの方策が立案されようとも、その施策を実現していくためには、その実施に対して社会的な合意を形成していくことが不可欠である。

当研究室では、社会的合意が達成されるプロセスを個々の主体が自己の利益の最大化を目指してゲームをおこなう結果、自発的に協力関係を形成される過程として捕らえる。

さらに、分権的・自発的に協力関係が形成されるようなルールに関してゲーム論的な解析をおこなっている。この過程において情報の非対称性が重要な役割を果たすことに着目し、不完備情報下の交渉や交渉結果が不変となるような選好の構造に関しても検討を加えている。

研究室ウェブサイト

http://www.drs.dpri.kyoto-u.ac.jp/